2015年8月号 農文協 現代農業「主張」 


農文協の主張 現代農業掲載


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現代農業 2015年8月号

空き家の地元力

目 次

◆空き家の増加が話題

◆一肌脱いで、むらの空き家を、移住希望者に紹介する

◆「空き家はあるけど貸し家はない」問題

◆人の気持ちを汲まないと「空き家流動化」は進まない

◆出ていく若者を減らすにも空き家

◆田園回帰とは、地域づくりのことである

空き家の増加が話題

 本誌の兄弟誌『季刊地域』22号(7月4日発売)では、「にぎやかなむらに! 空き家徹底活用ガイド」を特集した。

 最近は空き家問題がニュースに流れることも多く、今年は「空き家元年」といわれたりもする。空き家特措法が施行されて「自治体は本気で空き家問題に取り組むべし」となり、放置しておくと危険な空き家(倒壊のおそれがある、動物が住みついて異臭がするなど)に強制撤去や課税強化の措置がとれるようになったことなどが話題だ。

 空き家は全国で約820万戸、日本全体の戸数が6000万戸超なので、空き家率は13.5%。7〜8軒に1軒は誰も住んでない家、という計算になる。なんせ日本人は新築が大好きだ。「家を建てること」が人生の一大目標になっているし、政府も長年、手っ取り早い景気対策として、個人の住宅建設を補助や税制優遇で後押ししてきた。だがアメリカやヨーロッパだと住宅は中古が圧倒的で、日本人の新築好きは世界から異常に見えるものだそうだ。

 人口はこれからどんどん減るのに、家はどんどん増えるのだから、空き家も増えるに決まっている。このままの勢いでいけば、2040年には2〜3軒に1軒は空き家になって「お隣は空き家」が普通になる。――と、ここまでは他のメディアでもよく出てくる空き家の一般状況の話。農村部の空き家問題は、またちょっと趣が違ってくる。

一肌脱いで、むらの空き家を、移住希望者に紹介する

 

農村部の空き家で多いのは、「息子・娘たちはみんなとっくに都会に出て行ってしまい、老親はそのままずっと住んでいたのだが、やがておじいさんが亡くなり、一人残っていたおばあさんもとうとう介護施設に入居することになった」といったケース。誰も住まなくなると、家は傷んできやすい。木造住宅の一番の敵は湿気で、閉めきって風通しがないと、柱や床下、天井裏などが徐々に腐ってくる。都会の新興住宅とは違って、田舎の家はもとの造りはしっかりしていることが多いし、古くてもいい材を使っていることも多い。手入れしながら住めば本当はずっと住めるはずなので、何とももったいない話なのだ。

 いっぽうで、農村部に移住したいという人が増えている。よそから来ていきなり家を新築するのは勇気がいるし、おカネもかかる。誰も住んでいない家があるなら、ぜひ借りたいと言う。田舎の空き家は少々古くても、都会のマンションに比べれば圧倒的に広い。車も駐められるし、庭も、ちょっとした自家用畑も、うまくすれば裏山までついている。子供を自由にのびのび遊ばせられそうなのが何よりの魅力、と、そういう人たちは言う。

 だったら両者をうまくつなぐことに一肌脱ごうじゃないか、と立ち上がる人たちも増えている。むらに空き家はたくさんあるのだから、移住したい人を案内して見てもらい、気に入ったら住んでもらえばいい。これで、人が減っていくばかりのむらに新しい息吹を吹き込めるかもしれない。子育て世代の夫婦なら大歓迎。定年後に余生を田舎で過ごしたい人たちだって、むらでは若手。仲間が増えて活気が出ること間違いなしだ。

『季刊地域』22号は、そんな「空き家を使って、むらを元気にしたい」と思う人たちに取材してつくった号だ。

「空き家はあるけど貸し家はない」問題

 だが、そうやって、むらの空き家の紹介事業に乗り出した人たちは、一様にすぐ壁にぶち当たるようだ。「空き家はたくさんあるはずだから」と思って始めたマッチング事業なのに、いざ家主(町に出た息子・娘たち)に「空き家を貸してください」と持ちかけてみると、ことごとく断わられてしまうからだ。理由は、「え" 貸すんですか? ダメです。荷物がそのまま置いてあって、とても片付けられない」「仏壇があるし……」「お盆や正月は実家に帰ることが、ないとはいえない」「定年になったら、もしかしたら帰るかも」「貸すなんて、近所に世間体が悪い」「知らない人が、あの家に住むなんて……」などなどだ。

 これはどうやら全国共通、普遍的に起きる現象らしい。今回の『季刊地域』の特集内にも「空き家はあるけど貸し家はない問題」として、何カ所にも登場する。

 むらにとってはたいへん困った問題だ。せっかく移住希望者に空き家を斡旋してあげようと骨を折っているのに、紹介できる空き家がまるで揃わないわけだから。

 移住希望の人たちもがっかりだ。「なんだ、田舎には空き家がたくさんあるって聞いたのに、いざとなると貸してくれないのか。よそ者には意地悪するわけだ。やっぱり田舎は閉鎖的だなぁ」ということになりかねない。

 だがこの問題、編集部では「ちょっとおもしろいな」と感じてしまった。

「空き家になっているんだから、家を貸せ」と突然言われてビックリし、とっさに拒否反応を返してしまう家主の気持ち――ここにはまだ、むらへの紐帯(結びつき)がしっかり見える。今は都会に家を建てて住んでいるとしても、幼いころを実家で過ごした記憶はきっと身体に染みついているのだ。今、誰も住んでいないからといって、別に家を捨てたわけではなく、何となくずっとそのままにしているだけ。「今後どうしよう」などと真剣に考えてみたことがないだけなのだ。

 こういう人たちの実家は、「現象としては空き家だが、実態は空き家ではない」と見ることもできそうだ。そうなると、「農村部は人が減ってるから空き家が多い」という常識自体が怪しい感じに見えてくる。

人の気持ちを汲まないと「空き家流動化」は進まない

 かといって、そのまま誰も住まないのに放置しておけばいい問題でもない。家は傷むし、むらにとっても無人の家が増えるのは物騒だし、景観を悪くする。借りたい人がいる今、家主には「今後どうしよう」と、真剣に考えてもらう機会にしていく必要がある。

 そしてここが、間に立つむらの人たちの腕のふるいどころだ。無理やり貸してもらっても後々いいことにはならないし、貸すなら「むらの活性化のために」という気持ちを共有して貸してもらうのがいい。ひとつひとつ丁寧にことを運び、家主の気持ちも移住者の気持ちも汲みながら話を進める。

 今回の特集に登場する岡山県美作市の「かじかつ」(梶並地区活性化推進委員会)などは、このあたりが上手だ。「家財道具が一式残っていて片付けができないから貸せない」という家主には片付けの手伝いもするし、どこか一室を「開かずの間」にしてそこへ全部まとめておいたらどうか?といった提案もする。水回りなどの改修費(120万円くらい)がネックになる場合は、入居者にとりあえず負担してもらい、家主にはそのぶん月々の家賃3万円を2万円に値下げする(10年間)のはどうか?などといった提案もする。移住者に対しても丁寧で、一人一人とよくよく面談し、集落を連れ歩いてみんなに徹底的に紹介してまわる。空き家をリノベした「お試し住宅」に住める期間はたっぷり1年。その間に、その人に合った次の空き家を探してやる。引っ越し挨拶の粗品(ボックスティッシュ1箱)も用意して、配らせたりもする。

 話はちょっと違うが、このあたり、空き家問題は農地問題とも少し似ているのかもしれないと思った。農地流動化が叫ばれ、小さい農家の土地を担い手に集める目的で、昨年はとうとう農地中間管理機構までできたわけだが、初年度の実績は惨憺たるもの。「新規集積分」は年間目標のたった5%だったそうだ。制度のもくろみは現場に見事に拒否された形だ。いくら集積協力金をちらつかせても、上からの指示では農地は全然動かないのだ。田は、自分でできるうちは自分でつくり、できなくなったらそれから預けるもの。そのことをわかってくれていない仲介者には、集積の実績は上げられない。

出ていく若者を減らすにも空き家

 ところで空き家というと、すぐに外からIターンの移住者を呼びこむことを想像するが、愛媛県西予市の「川津南やっちみる会」の記事からは、そういう考えは狭いと思い知らされた。

「やっちみる会」も当初は外部からの移住者を期待した。チームで集落の空き家調査をして台帳までつくり、ホームページやSNSで告知。「問い合わせが殺到するかも"」「むらの人口減少もこれで止まるはず!」とワクワクして待ったのだが、結局は空振り。何の問い合わせも来ず、チームの活動も頓挫しかかっていたが、そこへある日、地元の若い奥さんから相談があったそうだ。「結婚して夫の両親と同居していたが、子供が二人生まれて手狭になった。家を探したが、川津南はほとんど限界集落なので、アパートもマンションも公営住宅も、不動産屋すらない。ここが好きで本当は出たくはないのだが、町の中心部まで下りて市営住宅に転居することも考えている」とのこと。

「貴重な若者に地区外に出られては困る」と、チームではさっそく状態のいい古民家の空き家を紹介。まったく未知の人に貸すわけではないので所有者との話もトントン拍子で進み、記念すべき空き家入居第1号は地元の若者夫婦となった。続く第2号は北海道に一時出ていた地元出身者だったし、第3号は、昨年結婚して、やはり町の市営住宅に移り住んでいた地元の若者夫婦。空き家があるなら生まれたばかりの子供を連れて戻ってきたいとのことだった。空き家の可能性は、じつは足下にこそ広がっていたということだ。

 ちなみに「やっちみる会」も最初に空き家調査をした際、先の「空き家はあるけど貸し家はない問題」に直面して面食らった経験を持つ。だがこのとき、貸せない理由に「いずれ、帰るかもしれないから」と答える空き家所有者をリストアップできた効果は大きかった。彼らには毎年7月の「川津南避難訓練&納涼祭」(参加率80%を誇る驚異の避難訓練!)の際に必ず声をかけたりして、積極的に働きかけることにしている。すると、意外にもみんなけっこう参加してくれるのだ。今のうちからつながりを強固にしておけば、地元出身者としてずっと応援団でいてくれるし、いずれは本当に帰ってきてくれるかもしれない。

 農村部の空き家は、地元を強化する力を秘めているのだと思った。記事では、空き家や空き施設(学校、お寺、店、医院、牛舎なども……)を使って、カフェにしたり、宿泊施設にしたり、シェアオフィスにしたり、みんなで集まれる場所(コミュニティスペース)にしたりと、地元の厚みを増す素敵な事例が他にもたくさん出てくる。おカネのない独身の若者たちには、田舎の大きい空き家を活かして、大勢で住むシェアハウス化が人気がある。そして、そうやって地元で盛り上がっている地域には、自然と人もやってくる。

田園回帰とは、地域づくりのことである

 さて今、田園回帰という言葉が話題になっている。このたびの『農業白書』にも大きく載ったし、農文協でも全集『シリーズ田園回帰』の刊行を始めたところだ。5月発行の第1巻『田園回帰1%戦略』(藤山浩著)に続き、9月には第2巻『人口減少に立ち向かう市町村』(農文協編)が発行となるが、この第2巻の取材チームに参加したときも、今回の空き家特集と同じようなことを感じた。

 田園回帰というと、「都会の若者が田舎に関心を寄せ、農村に移住するような動き」というイメージはないだろうか? 農業白書では少なくともそんな感じの記述になっていた。それはそれでとても大事にしたい動きではあるのだが、本当にそういう解釈だけでいいのだろうかと思ってしまったのだ。

 どうも、人が来やすい地域と、そうでない地域がある。

 近年、人口の社会増(転出より転入が多い)を実現して話題になっている島根県邑南町では、人が増えているのはどうやら、集落営農ができたり自治会が地域づくりのプランを立てたりして、地元力が高まったところだ。求心力が何となく働くのだろうか、地元出身者がぽつぽつと帰ってきており、今後も帰ってきそうな見込みが立っている。行政の側も、施策として地域おこし協力隊をたくさん入れたり、子供の医療費無料などの子育て支援策でシングルマザーを受け入れたりと頑張ってはいるのだが、どうもそれだけではダメそうで、大事なのはやはり地元との紐帯。Iターンで来た人も、地域の人たちが地元力を高める工程にうまく組み込んでもらえれば定着できるようだ。

 地元力。その点で島根県雲南市で始まっている住民自治の動きは圧巻だった。安心して暮らせる福祉・持続可能な地域を、住民みんなが参画できる規模(昭和の旧村単位)でつくり出す。そんな「小さな役所」みたいな地域自主組織が雲南市内に30カ所もあって、行政頼みにしない「自治」の精神で動いていた(「小規模多機能自治」と呼ばれる動き)。自分たちの地域を自分たちでつくる――このとき、彼らの目線が完全に中を向いているのに気がついた。

 かつて、日本中の田舎が、都会を見ていた。東京へ大阪へ、いやもう少し近い地方都市だったかもしれないが、自分たちの地域より外を見ていた。だから、ものの流れもカネの流れも、そして人の流れもその方向に動いた。子供たちは教育を受けて都会へ出た。仕事も都会で見つけるものだった。

 そのベクトルが今、変わり始めている。いや実際はもうずいぶん前からあちこちで変わってきていて、いろんな楽しい実践が随所で生まれている(だから『季刊地域』という雑誌が成立する)のだが、日本全体の動きとしていよいよ軸を都会からそれぞれの地域へ移す、回帰するときといえるんじゃないかと、それが「田園回帰」という言葉の意味なんじゃないかと、そんなふうに思ったのだ。

『季刊地域』の空き家特集で感じた「地元」の求心力、『シリーズ田園回帰』の取材を通して、確信に変わった。

*『季刊地域』22号の特集「空き家徹底活用ガイド」では、このほか自分でできる空き家のプチ改修(床の張り直し方、モミガラやワラ、セーターやダウンジャケットなどで屋根や壁を断熱する方法ほか)や、空き家問題のよくあるトラブル、空き家から生まれる小さいビジネスなどの記事も、掲載しています。『現代農業』と合わせてご覧ください。

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「新みずほの国」構想
     出版社 農文協
著者 角田重三郎
解題T 井上ひさし
解題U 山下惣一
解題V 加藤好一
 ※ 生活クラブ連合会長
   当協会 運営委員
        

食の戦争
     出版社 文春新書
著者 鈴木宣弘
 ※ 東大大学院農学部教授



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