■個人正社員 信岡誠治

協会正社員・賛助会員 組織のホームページ紹介(個人正社員 信岡誠治)

2024年11月17日

農村と都市をむすぶ2024. 11【No.872】
 
目 次
【時評】日本型直接支払の次期対策          K  Y   ( 2) (別記)
 
特 集「農産物価格形成のあり方」
◙特集農産物価格形成のあり方            安藤光義 ( 4)
◙適正な乳価・牛乳乳製品価格形成の模索       小田志保 ( 6) (別記)
◙米の価格形成をめぐる動向と展望
◙「合理的な価格形成」と「価格形成の場」をめぐって 西川邦夫 (16)  (別記)
◙卵価形成の実態と課題               信岡誠治 (29)
特 集
農産物価格形成のあり方
東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 安藤光義
 
生産資材価格の高騰を小売価格に価格を転嫁することができないという問題は、中小企業はもちろん、農業経営に大きな影響を与えている。
この問題は、流通機構や取引形態の変化との関連を視野に入れた農産物の価格形成のあり方が問われているということである。
そこで本特集では、
「適正な入荷・牛乳乳製品価格形成の模索EUの試みから-」(小田志保)、
「米の価格形成をめぐる動向と展望-合理的な価格形成と価格形成の場をめぐって-」(西川邦夫)、
「卵価形成の実態と課題」(信岡誠治) の三本の論稿を用意した。
各論稿でポイントとなると感じた点を以下に記してリードに代えることにしたいと思う。
誤読や誤解があった場合はどうかご容赦願う次第である。
「適正な乳価・牛乳乳製品価格形成の模索」では
⓵ 認定生産者組織(認定PO) による団体交渉の推進や市場の透明性の向上への取り組みが行われていること、
⓶ 酪農協系統乳業メーカーの取扱量と認定POを通じた団体交渉対象数量をあわせるとEU集乳量の七割が生産者の組織化により乳価形成への意思反映が行われていること、
⓷ 日本は集乳量の9割が従来の乳価交渉の枠組みの対象となっており、その高い組織率を保持したままの制度改革を目指すべきだとしていること、
⓸ 牛乳乳製品市場観測サイトMMOは食料システムの各段階の情報の共有を促進している(消費者にも理解しやすくなるよう統計をグラフ化して提供している) ことの4点である。
 
「米の価格形成をめぐる動向と展望」では、
⓵ 農林水産省の言うところの「合理的な価格形成」は生産調整を含めた農業生産構造ではなく、流通過程に焦点を当てたものであること、
⓶ 適正な価格形成に関する協議会での議論では、価格転嫁の実現は消費者の購買力という生産者や流通業者に如何ともしがたい部分に委ねられてしまっていること、
⓷ 「令和のコメ騒動」は、市場に出回る主食用米の約半分は収穫前に生産者と農協等の集荷業者の間で契約が済んでいるという市場構造の下、需要に対して供給が単に不足していたため引き起こされたのであり、生産調整による行き過ぎた作付転換にその要因が求められること、
⓸ 生産調整による供給量の削減が作り出した需給ギャップが結果的に価格転嫁を実現したが、これが持続的なものとなるかどうかは、先物市場での取引価格の下落もあり、慎重に判断する必要があること
の4点である。

「卵価形成の実態と課題」では、
⓵ 鶏卵の荷受相場は、全生産量の15%程度の取扱いシェアの全農たまご(株)の担当部が全国のたまごの生産状況、売れ行きなどの需要動向の情報を収集し、需給バランスを勘案して決めていること、
⓶ 鶏卵の流通構造は消費者が直接購入するパック卵での家計消費が五割、加工用と外食等の業務用での消費が5割で措抗していること、
⓷ 大規模層への寡占化が進んでおり、5~10万羽の階層は相場価格に最も頼らざるを得ないのに対し、50万羽以上層は相場価格から脱して固定価格の割合が高くなっていること、
⓸ 量販店やスーパーなど小売屈のパック卵の価格形成は固定価格が主流であるのに対し、加工用卵や外食等の業務用の鶏卵の価格形成は相場価格が主流であること、
⓹ 加工メーカーは「鶏卵はリスク商材で安心して使えない」とみており、鶏卵の需給の逼迫と需要の回復を実現するには、ワクチンの活用を含め高病原性鳥インフルエンザの克服と加工卵の備蓄体制を構築していくことが急務であることの5点である。
農林水産省は10月24日、生産コストを考慮した農産物の価格形成に向け、米と野菜も仕組みの対象にできるかを検討する品目別の作業部会の設置を決めたとのことである(2024年10月25日付日本農業新聞)。適正な価格形成に関する協議会での今後の議論が注目される。
 

卵価形成の実態と課題
日本養鶏協会 エグゼクティブアドバイザー 信岡誠治(一社)日本飼料用米振興協会 理事 正社員
 
1. はじめに
鶏卵は我が国の畜産物(生乳、牛肉、豚肉、鶏卵、鶏肉)の中では、唯一国産の鶏卵で自給自足を達成している希有な畜産物である。海外からの輸入は粉卵を軸としたもので自給率96% (2023年度)を堅持し、卵価は国内の需給動向で変動しているとされている。
 
そこで、卵価の動きを伝える代表的な指標として使われている全農たまご(株) が発表している荷受相場の価格決定の方法とそれがどう使われているのかをみてみる。
 
次いで、鶏卵の流通構造と卵価形成の関係性、すなわち量販店やスーパーなど小売店のパック卵の価格形成の実態、加工用鶏卵の価格形成の実態、外食等の業務用の鶏卵の価格形成の実態についてみてみる。
 
さらに、量販店やスーパーなどの店頭で目玉商品として取り扱われ廉売のパック卵の流通と「固定価格」で売られている、ブランド卵の価格形成の実態についてみてみる。
 
とりわけ、一昨年の高病原性鳥インフルエンザの大発生によって、約1億4,000万羽飼われている採卵鶏のうち一、六五七万羽が殺処分され鶏卵生産量(約260万t)のうち11.8% ( 約30万t)がなくなり、絶対的なタマゴ不足(エッグショック) に見舞われ、卵価形成にも大きな影響を与えたが、そこで得られた課題についても触れてみよう。
 
2. 全農たまご(株) の卵価形成の方法と荷受相場の位置づけ
 
鶏卵の荷受相場は、全国農業協同組合連合会(全農)が100%出資の全農たまご(株)が営業日の朝9時に発表する荷受相場(卸売価格あるいは相場価格ともいう)がべースになっている。
全農たまご(株)以外の商系の各荷受会社や各地の荷受会社も日々鶏卵相場を発表しているが、全農たまご(株)の荷受相場をべースとして相場をホームぺージや新聞の商品欄に発表している。
発表する鶏卵の荷受相場の内容は6段階ある鶏卵の農林規格サイズ別(SS・S・M S・M – L・LL、40~76gの問で6g毎にサイズを設定)に一同当たりの価格である。
したがってサイズ別の需給バランスによって鶏卵価格は決定されており、サイズによって価格差がある。
全農たまご(株)のHPでは卵価形成については「たまごは、魚や野菜と違って季節や天候による生産量や品質の変化が少ないため、卸売市場における現物を見ながらのセリや相対取引で決まることはありません。
相場を発表する各荷受会社は日々の需要と供給のバランスをみながら相場を決定しています。
このような相場の決め方のことを、セリや相対取引によって形成される卸売相場に対して荷受相場といいます」としている。
具体的には全農たまご(株)の担当部が全国のたまごの生産状況、売れ行きなどの需要動向の情報収集し需給バランスを勘案して荷受相場を決めている。
ただし、全農たまご(株) の鶏卵の取扱シェアは全生産量の15%ほどである。
残りの85%がこの荷受相場で取引されているかどうかは不明である。
理由は、全農たまご(株)などの「荷受相場」に連動して取引しているものと、生産者と量販店などのバイヤーや実需者、加工業者との問での相対取引で「固定価格」を決めて取引しているもの、生産者の「直売」によるものの三つがあり、その割合が把握されていないためである。
価格も荷受相場は公表されているが相対取引の価格はトレードシークレットとして公表されていない。
ちなみに、最近では店頭ではほとんど見かけなくなった農林規格のMサイズ、L サイズ(レギュラー卵という)のパック卵の価格は、かつては「荷受相場」の変動に連動して価格は変わっていた。
しかし、昨今の店頭でみかけるパック卵はほとんどが特殊卵(ブランド卵)でかつ、MS IL Lサイズが混合のミックス卵になり、店頭価格はブランド別の「固定価格」が主流となっている。
すなわち、特殊卵(ブランド卵)の価格は荷受相場の変動に関わらず「固定価格」であることが多いのが実態である。
 
これまでの荷受相場の通常の変動パターンは年明け直後の初値は大きく下げ、花見、イースターや五月の連休など行楽シーズンに向けて上昇、その後は夏場のお盆に向けて低下、お盆明けは秋の月見シーズンに向けて上昇し、特に十二月はクリスマスケーキやおせち料理、年末市場休業等による前倒し需要などの影響で、需要も高まるため、相場も最高値となるというパターンであった。
しかし、2004年(平成16年)に79年ぶりに圏内で発生した高病原性鳥インフルエンザの影響で、年始に突発的な不足状況が発生し、荷受相場が高騰したのを皮切りに、その後は毎年のように高病原性鳥インフルエンザが発生し、その発生の多寡によって荷受相場は乱高下してきている。
全農たまご(株)の荷受相場を使う場面は、鶏卵生産者経営安定対策事業における鶏卵価格差補填事業での標準取引価格の算定基礎データとして、もう一つは成鶏更新・空舎延長事業の標準取引価格(日ごと)の算定基礎データとしての利用である。
具体的には東京と大阪のMとLサイズの荷受相場に入荷量を乗じて荷重平均したものを標準取引価格としている。これは政策的な卵価安定のための基礎データとしての利用である。
パック卵の価格は相対での取引によるものが多いので全農たまご(株)の荷受相場は指標価格として利用されていると思われる。相対での価格交渉は「固定価格」であるので、指標価格はあくまでも指標であり、参考価格としての位置づけである。
 
3. 鶏卵の流通構造は家計消費と業務用等が措抗
 
鶏卵の流通構造は販路からみると大きく五つの流通に分かれている。
 
一つ目は家計消費である。
量販店やスーパーなど小売店のパック卵(殻付卵でテーブルエッグという)での流通をしており生産量の約五割がこのルート.で消費されている。
 
二つ目は加工卵での消費である。
液卵メーカーにより液卵・凍結卵及びゆで卵・温泉卵などが製造され、食品メーカー及び外食産業へ流通しており、生産量の約二割がこのルートで消費されている。
 
三つ目は業務用での消費である。
飲食店や外食等へ殻付卵が10㎏入りのダンボールで流通しており、鶏卵生産量の約3割がこのルー卜で消費されている(図1

四つ目は鶏卵の輸入である。
輸入鶏卵は主に卵白、全卵、卵黄を乾燥したものを粉卵の形態で輸入しており、様々な食品加工に使用している。
主な輸入先はオランダ、イタリア、米国、インドなどで輸入量そのものは殻付卵換算で11万t前後である。
国内生産が不足したからといっても輸入量は増やせないのが現状で、近年はむしろ減少傾向にある。
 
輸入鶏卵の国内での鶏卵消費量に占める割合は4.6%である。食品加工への使用形態は粉卵であるので殻付卵との直接的な競合関係にはない。
2024年1~8月期の輸入鶏卵の価格は殻付換算で247/kgであったのに対し、同時期の全農たまご(株) の荷受相場は203円/kgであったので輸入鶏卵の方が国内相場よりも2割ほど高い。
 
五つ目は鶏卵輸出である。
鶏卵輸出は2023年には香港を中心に1万8,600 tを輸出、輸出単価は366円/kgと国内相場の306円/kgよりも2割強高い価格であった。
しかし、最近(2024年1~8月)は中国国内の経済状況の悪化などで310円/kgと15%ほど低下してきている。
鶏卵輸出量そのものは卵生産量に占める割合は2%弱であるので、鶏卵需給に大きな影響は及ぼしていない。
鶏卵の流通構造は、消費者が直接購入するパック卵での家計消費が5割、加工用と外食等の業務用での消費が5割という構造で措抗しているのが特徴である。
 
4. 鶏卵の価格形成の実態
 
そこで鶏卵の価格形成の実態を一般社団法人日本養鶏協会が実施した「鶏卵生産等のアンケート調査結果」(2024年3月) からみてみよう。
アンケート調査は鶏卵の取引方法について「固定価格」、「両方使用(固定価格と相場価格の両方)」、「相場価格」の3つに分けて回答を求め、「両方使用」については「固定価格」と「相場価格」での販売割合を尋ねたものである。
全回答戸数は286戸である。
内訳は「固定価格」が24戸(8.4%)、「両方使用」が164戸(57.3%)、「相場価格」が98戸(34.3%) であった(図2

その結果、「固定価格」と「両方使用」の戸数比率は66%と3分の2は「相場価格」とは違う直売あるいは相対での価格形成を行っている。
「両方使用」の「固定価格」と「相場価格」の取引割合を平均してみると「固定価格」が55%、「相場価格」が45%で「固定価格」での戸数割合がやや多い。
そこで焦点となるのは、鶏卵生産量全体に占めるそれぞれの取引方法の割合である。
農林水産省の畜産統計によると2024年2月1日現在の採卵鶏の飼養農家戸数は1,470戸、成鶏めす(6か月齢以上) の飼養羽数は1億2,968万9千羽である(表1参照)

1955年(昭和30年) 当時は採卵鶏の飼養戸数は450万7,500戸、飼養羽数3,958万八千羽、産卵個数67億4,300万個、卵価・東京Mサイズ205/kgであったものが、2024年はわずか1,470戸、残ったのは3千分の1以下となり、飼養羽数は3倍以上に拡大してきている。
いかに激烈な生き残り競争が展開されてきたのかが伺い知れる。
卵価も前述したように2024年1~8月の東京Mサイズが203円/kgであったので、69年前の205円よりも低い価格である。
物価変動で何倍にも価格は上がっても不思議ではないにもかかわらず、今日も鶏卵は物価の優等生である。
 
最大の関心事は、羽数規模別の戸数シェアと羽数シェアである。
「5万羽未満層」は戸数シェア60.8%、羽数シェア9.6%である。
それに対して、「5万羽~10万羽未満層」は169戸で戸数シェア10.4%、羽数シェア9.2%、「10万羽~50万羽未満層」は264戸で戸数シェア16.3%、羽数シェア47.5%と中央部分を占めている。
「50万羽以上」は49戸で戸数シェアは3%に過ぎないが羽数シェアが33.5%となっている。
結論的には、「10万羽以上層」の313戸で羽数シェアが81%である。
大規模層への寡占化が一層進行している。
この階層区分で日本養鶏協会のアンケート調査結果を再集計してみると、次の通りである。(表2参照)

5万羽未満】小規模層の「固定価格」が18戸と多いのはネット取引や地元での直売での取引が他の大規模層に比べて多いことが反映されているものと思われるが、一番多いのは「双方使用」である。
510万羽未満】層が最も多いのは「相場価格」で、これは相対での価格交渉力が弱いためである。
1050万羽未満】層では最も多いのが「双方使用」で相対での価格交渉にも力を入れているが、まだ成果が充分上がってなくて「固定価格」の比率は3割台に止まっている。
50万羽以上】層は「双方使用」が最も多いが「固定価格」での価格設定の比率が6割台を超えており、価格交渉力が他の羽数規模層に比べて高いとみられる。
 
以上を小括すると、羽数規模によって取引方法は差異があり、「相場価格」に頼らざるを得ない階層は510万羽層である。
それに対し50万羽以上層は「相場価格」から脱して「固定価格」の比率が高くなっている。
総体としてはパック卵に関しては「固定価格」での流通が主流となってきており、加工用と業務用に関しては「相場価格」が主流となっているとみられる。
次いで、販路別の価格形成の実情を生産者、実需者、小売業者等にヒアリングしたが、その概要は次のとおりである。
 
1) 量販店やスーパーなど小売店のパック卵の価格形成は「固定価格」が主流
 
パック卵の価格形成は「固定価格」が主流で、鶏卵生産者が最も力を入れているのは、量販店やスーパーなど小売店への「固定価格」での販路確保である。
価格交渉はバイヤーとの相対での交渉である。
生産者のオリジナルブランド卵、スーパー等のプライベートブランド卵(PB 卵)など、それぞれに細かなスペック(納品条件や衛生条件など) と小売価格と納品価格および決済条件を交渉で決めて継続的取引契約を締結している(これを生産者は「商権」という)。
生産者とバイヤーとの力関係は圧倒的にバイヤーの方が強く、生産者の要求がそのまま通ることはない。
競合他社との価格競争もあるので、その価格との兼ね合いを見ながらの価格交渉となる。
バイヤーは上司から売上金額の増加というノルマが課せられているので、売上が伸びる商材の確保と商品棚の構成が最大の焦点である。
しかし、鶏卵は日配品で毎日、定時定量で納品されるのが大原則であるが、どうしても欠品が出たり、逆に売れ残りが出たり、賞味期限が迫ってくると値引きや引き取りという問題が出てくる。
消費者からのクレーム対応、ひび割れや破卵などの事故卵(ロス卵) の発生も見込んだ値決めとなるが、最大の課題は消費者の購入意欲を促す価格設定である。
これまでは1パック10個入りで200円台が値ごろ感で消費者の抵抗がない価格帯であたが、配合飼料価格の高止まりで値上げしないとコスト割れであるため1パック300 円台を小売の「固定価格」に設定するよう取引交渉している。
スーパー等で客寄せの目玉として卵がよく使われるが1パックが100円台、たまに100円以下のものもあるが、これはお店が出血サービスとして取り組んでいるものである。
スーパーの担当者は目玉商品として卵を使うと「販売量は一時的に伸びるが金額ベースでは伸びずに減る」としている。
その結果、店頭の鶏卵価格は、近年は高いものと安いものとの格差が拡大してきている。
1パック400円台のものがある一方、200円以下のものもあるという状態で2倍以上の価格差がある。
生産者がよく口にする一番の問題は、バイヤーからのキックパックの要求である。
なかなか表に出てこない商慣習であるが、他の商品でもよくある話である。
これは優越的地位の乱用ということで公正取引に抵触する問題であるが、水面下で横行している。
したがって、店頭で生産者が望むある程度高い「固定価格」で販売されていても実態は余りメリットがないという取引で価格形成が行われていることもある。
 
また、最近の動きで気になるには、パック卵の小売価格と荷受価格との格差が広がってきていることである。
従来、パック卵の小売マージンは他の食品に比べて低く20%台前半であったが、最近は30%台になっている。
従来、卵は一物一価でほぼ横並びの小売価格であったのが最近は卵の種類、価格、個数それぞれバラバラとなってきており、一言で分かるように説明することができづらくなっている。
卵の生産方法もケージ飼いから平飼いなどケージフリーが徐々に増加えつつあることに加え、卵殻色も赤、ピンク、白に加え青色(アローカナ鶏) の卵、栄養強化卵、機能性表示食品の卵、飼料米で育てた卵、サルモネラフリーの卵など多様化してきている。
小売店では、消費者の購買意欲が出る価格帯になるように個数を減らして店頭に置くなど販売作戦も多様化してきている。
鶏卵の価格形成の主戦場はテーブルエッグであることから、全農たまご(株)の荷受相場とは関係なく小売りのバイヤーと相談しながら相対で「固定価格」を設定するようになってきているのが実情である。
 
2) 加工用卵の価格形成は「相場価格」が主流
 
加工用(液卵・凍結卵など)の卵の流通は大手数社で寡占化されており、価格形成は「相場価格」での取引が主流である。
しかし、このビジネスモデルでは事業の永続性の観点からは齟齬が生じるので、ある加工メーカーは二割程度を「固定価格」での取引としているという。
この「固定価格」は生産者が再生産できる卵価をベースに卵の品質や特性の優位性、GPセンター(鶏卵の選別包装施設)のコスト、輸送や配送のコスト、マージンを積み上げた価格設定である。
相場価格によるスポット取引による原料卵調達が加工ビジネスの主体であるが、品質の向上と安定性を担保するには、生産段階から衛生管理がしっかりとしており安定的に生産してくれる生産者と連携することが重要であることから、割卵工場自体を大手生産者の農場のある地区に立地させることも行っている。
本来、鶏卵の需給調整の調整弁は加工卵で行うべきで、かつては株式会社全国液卵公社による加工卵の液卵などの買い上げ、売り渡しなどの事業があったが、現在は廃止され、民間に任せられている。
しかし、いざという時には絶対的な供給不足で食品企業の運営に支障をきたすことから、一定程度保管コストの財政支援ができないかという要望が出されている。
 
3) 外食等の業務用の鶏卵の価格形成は「相場価格」が主流
 
外食など飲食店での鶏卵は10kg入りのダンボール箱で流通しており、価格形成は大半が「相場価格」で全農たまご(株)の荷受相場が基本となっている。
こだわり卵で生産者との相対で「固定価格」での取引もあるが圧倒的に「相場価格」が取引の主流となっている。
ダンボールはサイズ別にSS~LLまで6段階に選別された卵が詰められ、主に卵の卸業者から配送されている。
お店の用途に応じて適したサイズの卵が配送されているが、割卵の手間などを省くことができる液卵のニーズが最近は増えてきている。
 
5. 鳥インフルエンザの大発生による卵不足と卵価形成の課題
 
2022年度シーズン(2022年10月~2023年5月) は高病原性鳥インフルエンザが大発生した。
卵価の高騰、卵不足と供給制限は「エッグショック」といわれ、マスコミでも大きく取り上げられた。
約1億4,000万羽飼われている採卵鶏のうち1,657万羽が殺処分され、鶏卵生産量(約260t)のうち11.8% (約30万t) がなくなり、絶対的なタマゴ不足が起こった。
これは卵価形成にも大きな影響を与えて、全農たまご(株) の荷受相場は東京Mサイズで2023年4月には350円/kgまで高騰し、同年6月まで高騰は続いた。
 
しかし、2023年下半期は、供給が回復傾向に向かう一方、需要の回復が遅れたことで、需給が緩み、卸売価格は概して下落し続け、2024年1月には180円/kgまで下落し、その後も低調に推移してきた。
2023年シーズン(2023年11月~2024年4月) の高病原性鳥インフルエンザの発生(79万羽殺処分) は供給に深刻な影響を及ぼさなかった。
外食の需要は2023年においては卵メニューの休止等が相次いだが、後半から卵メニューが戻り需要は回復してきている。
しかし、最大の課題は加工需要の回復の遅れである。
加工需要の消失ともいえる状況がなぜ生じたのか。
加工メーカーの立場から言えば「鶏卵はリスク商材で安心して使えない」からである。
いつ高病原性鳥インフルエンザが再発して卵不足が起こるかわからないのが現状であるため、安定供給の保証がないと使えないという。
打開策は、鶏卵を割卵して液卵あるいは凍結液卵として備蓄していくというのが最も現実的な方法である。
そこで、鶏卵の需給の安定を実現するには、高病原性鳥インフルエンザの克服と加工卵(凍結液卵など) の備蓄体制を構築していくことが急務となっている。