2016年5月号 農文協 現代農業「主張」 


農文協の主張 現代農業掲載


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現代農業 2016年5月号
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目次

◆5月号のすべての目次はこちら

カラー口絵

青い実つきブルーベリーを枝物で売る

絵のページ

ちょっといい話/漬け物お国めぐり/スズメバチの生活/ドブロク宣言/地球暦でみる二十四節気/土を診る

巻頭特集

山、庭、土手の草花を増やす 楽しんで利益が出るなんて最高だよね 柳下満里子

◆挿し芽で増やす

種イモ一個から何株も ジャガ芽挿し栽培 坂本堅志

キャベツもブロッコリーも わき芽挿しでどんどん増やせる 酒井貞由

根づくとウキウキ 挿し芽の洋子は増やさずにはいられない(秋田・草薙洋子さん)

挿し木で増やしちゃいけない植物

熱帯果樹の増やし方

 バナナ 滋野亮太  パイナップル 田代憲一  パッションフルーツ 宮嶋博人

挿し芽でずらす

 ずらし植えで長期どり わき芽接ぎ木トマト苗を見た(茨城・高瀬英治さん)

 ナスを挿し芽したら立派に育った 福井喜美子

挿し芽で減農薬 クレオメ/ミント

◆挿し芽をもっとうまくやる

管理なしでラクラク発根 節水・密封挿し 片山一平

イチジク挿し穂にパラフィンテープ 平井達也  手作り植物酵素液

絵とき 挿し芽・挿し木必勝法

◆わき芽を売る

わき芽はなんでもよく売れる(熊本・末松豊子さん)

はくさい菜が飛ぶように売れる (富山・池村やす子さん)

色よいミニブロッコリーを連続してとるコツ 鳥羽田いつ子

葉も茎も食べられるブロッコリーを3回どり 尾崎保幸

秋どりキャベツのわき芽から3月にミニキャベツ

ずっと太い のらぼう菜の連続わき芽収穫術 高橋孝次

わき芽料理はいかが ピーマン/スナップエンドウ/ゴーヤー

トマトのわき芽でおもてなし 末時千賀子


稲作・水田活用

コストダウンで、やる気はアップ
  集落営農で疎植イネ

作業受託法人で疎植談議

北海道で広がる 乾田直播で田畑輪換(上) 齊藤義崇

田んぼのアイデア除草 2016

草がおもしろいように浮く除草器 中野英樹

マグロ釣りスタイルでチェーン除草 石塚美津夫

竹ぼうき&チェーン合体除草 前原武人

【多収イネの姿2】深水で根優先の生育に 薄井勝利

【動散バラ播き直播4】疎植一本植えのような初期生育 大森尚孝

【飼料米で稼ぐ2】あれ以上のイネ姿はない(大分・西川政一さん他)


野菜・花

今年はタマネギを腐らせない

葉身倒伏後防除とフレコンバッグ移送で、腐敗病、黒カビ病が激減 仲延旨

タマネギは、3回踏めば腐らない 甲斐浩二

わが家の黒カビ病対策

タマネギの貯蔵腐敗の原因と対策 大西忠男

アスパラガス 名人の立茎を見た(佐賀・内川安馬さん)

トマトのセル苗ピンチ2本仕立てはいいことだらけ 若梅健司

【脱イチゴの中休み5】近年の中休み 岩男吉昭

各産地の中休みの傾向

【環境制御Q&A?13】暖かくなって茎が細くなってきた 斉藤章

【マルハナバチ4】巣箱を長く持たせるには〈農薬編〉 光畑雅宏

【花の故郷4】アヤメ 冨山稔

【カメラ訪問記225】1万5000坪の小ギク栽培 赤松富仁


果樹

もっともっと受粉をラクに

モモの風まかせ受粉、秀品率増、摘果もラク(和歌山・永長幹雄さん)

ボルドー液処理でナシ幸水の無受粉・省摘果栽培 平塚伸

SS受粉

リンゴ1haが1時間、専用機械もできた(青森・三浦藤市さん)

SS溶液受粉は花粉をじっくり溶かす 佐藤友治

【彫りの深いリンゴ3】厚くてV字に反った葉を 工藤秀明

【ブドウ実験農場4】ジベレリン処理を一発で 宮田昌孝

【アボカド2】圃場の選び方、植え付け方 東愛理

【年の差57歳の珍道中9】鈴木君の家探し 田中ふき子

【果樹せん定の珍道中(下)】ハサミの使い方がなってない


山・特産

10aで150万円儲かるコケ栽培 二村元

山の茶園を元気にする製茶法の提案 大橋鉄雄

【日本ミツバチ4】スムシ、スズメバチ対策 佐藤清

【チェンソー自由自在13】燃料を正しく作るコツ


畜産

脱・化粧肉(2) 60日齢離乳が秘訣(鹿児島・興邊雄次さん)

虚弱牛には強化哺育で早期離乳 寺田清美

ホル肉で自家製ドライエイジングビーフ 前田智恵子

【乳牛9歳6産】家に残したい美しい牛 柴田瑞穂

【護蹄管理10】日本で広がる世界の削蹄法 阿部紀次

トラクタにあると便利な道具

鍬とスコップ 木村節郎  バックモニター
手作りキャビン 安藤悦美

中山間地用水田栽培管理ビークルを開発 藤岡修


くらし・経営・地域

楽しく健康、小遣い稼ぎにも 雑草栽培(前編)


痛み止めに オトギリソウは奇妙に効くな(愛媛・宮崎美代子さん)

脳溢血や脳梗塞の予防にメナモミを 塚本東亜子

咳が止まってビックリ 巨大オオバコでブレンド茶 宮下朝子

地元のお客さんとつながるノウハウ

震災を経て地元販売の面白さに目覚めた(千葉・笠原秀樹さん)

お客さんは軽トラで配達できる40軒 東山広幸

地元のお客さんをファンにするイベント運営 西田栄喜

小さい農家と消費者が支え合う 日本型CSAの可能性 唐崎卓也

【私の主治医は私2】ひざ 橋田秀代

【おもてなし料理5】タケノコ寿司 末時千賀子

【チャキチャキ菜園5】5月の隙間をねらう 鳥羽田いつ子

【家系図の作り方5】戸籍の謎めいた記載 橋本雅幸 

【マンガ日本国憲法4】第25条 生存権と国の社会的使命

【田園活写4】棚田のおひな祭り 橋本紘二

【集落営農危機7】集落営農は気軽に始めればいい 仲延旨

【意見異見99】農業委員の仕事はこれからどうなるか 佐久間亨

【編集局ニュース5】わが家の小麦で全粒粉パン――『季刊地域』より


その他

【農家の法律相談】用水と土石が畑に流入、水利組合に補償してもらいたい

【農家の税金相談】繰延資産とは

主張農地を守るとはどういうことか 農地をめぐる邪な動きを排する、家族農業と農地法の大義

あっちの話こっちの話/何でも相談室/野良で生れたうた/読者のへや



現代農業 2015年5月号

農地を守るとはどういうことか
―農地をめぐる邪な動きを排する、家族農業と農地法の大義


目 次
◆農地をめぐる危険な動向=農地の一般商品化
◆「オレのものであってオレのものでない」 ―農家と農地、そして、むら
◆「むらに返す」と思ってはいても……
◆集落営農という器で生まれる新しい「共同体」
◆農地を、むらと農家から再び切り離そうとする「平成の農地改革」を農家農村の歴史力で撃退しよう!


農地をめぐる危険な動向=農地の一般商品化


 農地は誰でも自由に買えるものではなく、一定の要件を満たす者だけにその取得が許されている。農地法がそのような「制約」をかけているのには、それ相応の理由と歴史があり、日本人の農地に対する数百年の経験の積み重ねがあるからだ。

 ところが今、農家や農業関係者には当たり前のこの歴史や経験を知らない、あるいは学ぼうとしない財界など農外の勢力が、農地を農家とむらから切り離そうとする邪な動きを強めている。規制改革会議や産業競争力会議、それらの「ご注進」を得て国家戦略特区における一般事業法人(株式会社)の農地所有権取得を突破口に、いずれはそれを全国的に全面解禁しようとする安倍晋三政権の動きだ。

 株式会社とは、譲渡自由の株式を基に成り立ち、あるいはまた、より安い労働力や税金の安い国をもとめて必要とあらばいつでも地域を捨て国を捨て他に移れる移動の自由をもっている。このような株式会社に農地所有権の取得を解禁するということは、とりもなおさず農地を、他の一般商品と同じく、所有した以上は煮て食おうが焼いて食おうが勝手、転用を含む売買自由の世界に置くということにほかならない。それは移動不能な大地の上で営まれ、むらに定住しその共同性の中で育まれてきた農業の世界とその大義や道理に真っ向から反する、時代逆行のもくろみだ。

 農文協は、TPPともども農家経営と農村社会の営みを圧迫し、ひいては国民経済や日本社会全体の安寧を土台から破壊しかねないこのような邪悪なもくろみに抗し、農家とむらと農地制度の来し方行く末を考え、新規就農者などをも含む将来世代にどのような農村社会を引き継ぐべきかを考察、展望した本を出版した。題して『農地を守るとはどういうことか―家族農業と農地制度 その過去・現在・未来』。農業法を専門とする早稲田大学教授・楜澤能生氏の著になる本だ。今月は、この楜澤さんの著書のエッセンスを紹介しながら“家族農業と農地法の大義”を考えてみたいが、その前提としてひとつの興味深いエピソードを紹介したい。


「オレのものであってオレのものでない」

 ―農家と農地、そして、むら


 エピソードとは、先月号の本欄「『小農の世界』が新しい力を得て蘇る」でも引用、ご登場いただいた農学者の故守田志郎さんが福島県会津地方の農家Aさんと囲炉裏を囲んで話し合ったときのことだ。1977年(昭和52年)、今から40年ほども前のことである(以下、守田志郎『文化の転回―暮らしの中からの思索』農文協・人間選書より)。

「おれの家の田んぼはな、おれが耕している間だけおれのうちの田んぼなんだなあ、きっと」

「ふーん?」

「息子の代になっても同じだな、それは」

「耕すのやめるときは?」

「耕すのやめないもん。だけど、やめるとすれば、そんときは返すんだな」

「売って金にすればいいじゃない」

「預かっているものを勝手に売るわけにはいかない。おれの品物っていうわけじゃあないからな」

「どこに返すの?」

「どこに返したらいいかわからん」

「・・・・・・」

「部落かもしれないな。ここは部落の土地だからな」

 こうAさんとの対話を紹介したあと、守田さんは言う。

「Aさんが『部落に返すのかな』と言うとき、それは、畑や田に関する限りなのだが、それにしても、所有という概念を根底から否定してみせている。『オレのものだがオレのものじゃない』、そういった感じかもしれない。もう少し形を整えて言えば、土地というものについては、私的所有はその私的所有と対立する何かと併存しているのではないか、ということになろうか。その何かがあるために、商品一般と同様の百パーセントの処分権を行使できない、という事情が土地にはある、ということのように感じられるのである」

「それじゃ勝手に処分できないってことか?」と後日疑問を呈したのは、守田さんの学者仲間の友人。守田さんは答える。

「そうなんだよ。そりゃあ事情もいろいろだから、農家は田や畑を売りもすれば買いもする。だが、それも何らかの形で部落の中の承認のもとに行われているのだと思う。昔からそうだったし、今だってそうなんだ」。――それでなければ、この小農世界における農業的な生活と生産は続かないはずである。そう述べて、守田さんは続ける。

「土地を商品として扱ってはばからない連中が多くなったのには寒心のほかない」

「原始をはずして考えるならば、共同体はその長い歴史の中で、常に私的所有をその内部に発生させていた。したがって、共同体的所有と私的所有との矛盾を常に内包しているのである。そういう矛盾を内包しているものを共同体というのかもしれない。田畑における共同体的所有に対する私的所有は、社会構成の変化などの歴史の推移のなかでいろいろに変わる。しかし、どのような推移があっても共同体的所有のほうは変わらず、これがベースになり続けるのだと思う」

「共同体の土地、部落の田、その関係を基礎にということだが、さしあたり今の日本では、それを尊重する理念を少しでも多くの人が持つことが、荒廃を防ぐ幾分の手立てにもなろうか。そして、都市の土地も同じことだ、とも思うのである」


「むらに返す」と思ってはいても;


 右に紹介した守田さんとAさんとの会話には、じつはもうふたこと三言、続きがある。

 耕せなくなったとき田を返すのは「部落かもしれないな」とAさんが言ったあとの会話である。

「どうやって返すの?」と質問する守田さんに、Aさんは言う。

「今は、部落じゃ返すったって、そういうふうにはなってないな」

「むずかしいねぇ」

「むずかしくはねえ。結局耕すのやめなきゃいいわけだからな」

 こう締めくくったAさんの言葉を受けて守田さんは思う。所有という概念を根底から否定してみせたAさんだが、「耕すのをやめたとき(やめざるを得なくなったとき)、では実際にどこに持っていったらよいのかとなったときのとまどいを、『耕し続ける』のひとことで払拭しようとする。何しろすべて私的所有で取り巻かれているそういう世界でこのことを考えなくてはならないのだから、そこは彼としてもつらいところである」

 耕せなくなったら部落(むら)に返すと言ったってそれは土地についての思想上の話であって、法人格のないむらに返すというのはAさんも先刻承知のように現実には机上の観念論に過ぎない話ではある。

 個別相対の請負耕作とか機械の共同利用など部分的な受委託や共同はあっても、こんにちのような集落営農などない時代である。思想と現実の落差、壁に歯がゆい思いをしたのはAさんだけではなかっただろう。


集落営農という器で生まれる新しい「共同体」


 しかしこんにち、Aさんに象徴的に体現されている“共同体的所有をベースに据えた私的所有”という農家的農地所有観は脈々と引き継がれ、2000年代後半以降、集落営農というきわめて日本的な形で、その思いを形にすることができてきた。集落営農という、いわばむらの中のむらができたからAさんのいう「むらに返す」ことが可能になってきたのである。その数、今や1万5000弱。本誌先月号で大分県宇佐市の仲延旨さんが「集落内の農地継承をうまくやるために」と題して報告してくださっている集落営農法人もその典型の一つだ。

 仲さんが理事を務める「(農)よりもの郷」は、組合に加入していなかった認定農業者Nさんの農地5.6haすべてを組合に利用権を設定してもらうことにした。Nさんが病気のため離農することになり、かつ後継者だった長男も米価下落などで経営が悪化し、兼業先の勤めに専念することになったからだ。農地の管理料や転作奨励金の配分、経営転換助成金の受給手続き、農機具ローンの返済計画など種々の手立てを講じ、Nさんに安心して離農し、病気療養に専念できるよう支援した。その思いを仲さんは次のように述べている。

「農家の離農は、計画的にやめる場合はまれで、病気等をきっかけに突然やってきます。その場合は農地(小作農地、本人の自作農地)を誰に頼むか、残った機械をどう処分するかなどの問題が発生します。この時に農地の利用権設定による継承がうまくいかないと、他地区からの入り作が増え、集落のブロックローテーション(転作等の農地の利用調整)がうまくいかなくなることがよくあります。

 今回、Nさんの場合も予想はしていましたが、突然離農するという相談が後継者である息子さんからありました。組合としては、これまで一緒に地域で農業をやってきた仲間でもあるので、できるだけの支援をし、農地の経営継承を行ないたいと協議しました。それで24年度は、次のような条件(右に述べた農地の管理料や転作奨励金の配分等々)でNさんのすべての農地(5.6ha)を組合が管理することにしました」

 組合の経営面積が増え経費が大幅に増大したことによってその後組合の資金繰りが一時悪化したことや、それを乗り越えて改善した経緯など、詳細は先月号の本記事をお読みいただきたいが、本「主張」のテーマに即して注目したいポイントは、

 (1)集落の中では誰かが病気等になり突然離農せざるを得ない事態がいつ起こっても不思議ではないこと、

 (2)その農地を集落内で継承しないとブロックローテーションなど農地の利用調整がうまくいかなくなること、

 (3)たとえ集落営農組合に参加していなかった人でも、地域でともに農業をやってきた仲間であることに変わりはないという姿勢で臨んだこと、などだろう。

 かくして「耕せなくなったら部落に返す」という先のAさんの思想、日本の農家の農家的農地所有・利用観が現代的に見事に実現した。

 むらに行くとよく聞く話だが、役場や農協の職員が集落座談会を開き、「当集落の農地流動化を進めるためにいかなる方策があるか、知恵を出してほしい」と言われても、集まった農家の人たちはしーんとして何も話は出てこない。まるでお通夜のようになるという。しかし、部落会長なり農家組合長なりが「あそこのじいちゃんとこの田んぼ、足腰がだいぶ弱ってきたから何とかしてあげなきゃならんなぁ、そろそろ」などと話を切り出すと、一同「そうだそうだ、なんとかするべ」となって話は一気に盛り上がり、様々な知恵が出てくる。

 あらかじめ何haという目標を示された、規模拡大先にありきの「農地の流動化」という類の話には農家は乗らない。人のサイフに手を突っ込むようなことはしないのである。そうではなくて、むらの農地をどうやってみんなで守っていくか、高齢の農家も病気がちの農家もどうやってむらで一緒に暮らし続けていけるか、そのための農地所有権の移転や利用権の設定なのであり、あるいは畦畔管理や水管理など比較的重くない作業の再委託をして完全脱農化を避ける工夫なのである。共同体的所有をベースに据えた私的所有、日本の農家は日々この思想を具体化している。

農地を、むらと農家から再び切り離そうとする「平成の農地改革」を農家農村の歴史力で撃退しよう!


 以上、農家と農地とむら(集落)の、切っても切れない強い絆をエピソードもまじえ縷々述べてきたのはほかでもない。冒頭に述べたように財界や安倍官邸農政によるTPP対応、農業の成長産業化なるかけ声の下、農地を、むらと農家から再び切り離そうとする危険な動きが強まっているからだ。先に紹介した『農地を守るとはどういうことか―家族農業と農地制度 その過去・現在・未来』の中で著者の楜澤さんは次のように述べている。

「農地法制の歴史は、いったん農家やむらから離陸させられた農地(地主的土地所有権)を再び農家やむらに着陸させる(農民的農地所有権確立の)歴史だった。ところがその農地所有権を否定してこれを所有権一般に戻そう、農地を商品一般に解消しよう、農地所有権を一般法人に開放しようという『平成の農地改革』断行がますます声高になっている。戦前の法原則へ回帰し、農村の自然と社会に組み込まれた農地を、またしてもそこから切り離し、離陸させようという主張である」

 ここで楜澤さんが批判する「離陸させようとする主張」の眼目は、内容的には現行農地法の要をなす「耕作者主義」という概念を廃棄せよということである。いささか長くなるが、歴史の経緯も簡単にふり返りながら、守るべき「耕作者主義」というものの意味を紹介しよう。

「明治政府が、農地を他の商品一般と同様に自由な取引、自由な所有権の対象物とした結果、小作人の労働の成果を横取りする地主制が確立した。労働の成果を自ら手にしたいという小作人の切実な思いと、むらの土地はむら人の手に、というむらの願いに応えようとした先人たちは、農地を自由に売り飛ばす権限としての所有権に法的制約をかける農地制度の確立を展望した」

 戦後農地改革とその成果を保持することを目的とした農地法は、このような歴史の教訓から学び、農地を実際に耕作する者に帰属させ、非耕作者の手に渡らない仕組み(=耕作者主義)をつくり上げた。ここでいう「耕作者主義」とは以下のようなことである。

「52年農地法で北海道12ha、都府県平均3haと決められていた保有限度面積は、機械化の進展などによる経営規模拡大に資するため70年改正で撤廃された。

 そうなると農家によっては人を雇って農作業をやらせ農地をどんどん集積し、自分は左団扇という羽織百姓が出てくるとも限らない。これは農地改革と農地法がつくりだした農村経済秩序〈働く者に労働の成果を〉を崩すことになる。このような事態を想定してこれを回避するため、面積上限を撤廃する代わりに、権利取得者又はその世帯員が耕作又は養畜の事業に必要な農作業に常時従事すると認められることを農地移動の許可要件として導入した」

「農作業に常時従事するには、農地の近傍に居住しなければならない。生産に従事する場が同時に生活の場であるという、生産と生活の一体性が求められたといってもよい。

農作業常時従事要件を明記したことによって農地法は、自ら農作業に常時従事する生活を営む地元農家を、農地に対する権利主体として保護することを明らかにしたのである。この生活スタイルには、事実上村落社会の構成員として地域社会を担う活動も含まれる。農地の権利主体は、水資源その他、里山、山林の自然資源や、祭り等の文化資源の共同的維持管理にも従事する担い手であることが暗黙の前提とされているといってよい。農地の権利をもつためには、農村社会の一員でなければなら」ず、農外の「投資家が農地を買って第三者にでも農業をやらせればいい」というものではないのである。

「土壌は、生きものの間の内在的な関係を形成する微生物の世界であり、農業にとって本源的な意味をもつ(中島紀一『有機農業の技術とは何か』農文協、2013年)。豊かな微生物の棲息空間としての土壌は、長い時間をかけて醸成されるものである。これを再興し維持する農業の担い手となることができるのは、その土地で生きる生活者、すなわち地域社会・文化の担い手として、農地を含む自然との総体的関係を共同で形成しつつ、世代を越えてこれを継承する農業者をおいてほかにない。

 この生活スタイルの保持を要求する『耕作者主義』と、地域農業・社会を共同で構築するシステムとしての『農地の自主管理』は、持続可能な農業を展望する上で不可欠の法原則といわなければならない」

 譲渡自由の株式を力の源泉とし、自由な移動性を旨とする農外大企業の株式会社には持続可能な農業農村を創る意志も力もない。農家と農村の歴史力を発揮し、安心、安寧な地域社会づくりに邁進したい。

(農文協論説委員会)


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シリーズ田園回帰 田園回帰1%戦略』藤山浩 著

地方消滅の危機が叫ばれているが、毎年人口の1%を取り戻せば地域は安定的に持続できる。島根県での小学校区・公民館区単位の人口分析をベースに、定住増に対応した地域内循環の強化による所得の取戻し戦略を提案。



シリーズ田園回帰 総力取材 人口減少に立ち向かう市町村』『季刊地域』編集部 編

人口減少対策はいまや全国の自治体や地域に共通する課題となっている。I・Uターンを多く迎え入れて社会増を実現した地域、他地域に住む地元出身者との関係を強めて活力を維持している地域など、住民自身が動き出した市町村は何が変わったのか。自治体の政策とともに集落・自治会・公民館まで分け入って現場の動きを取材。転換点となる戦略を4つのポイントから掘り起こす。



増補 共同体の基礎理論』内山節 著

「封建遺制」とみられた共同体が、「むらの精神」に寄り添うことで、自然と人間の基層から未来を切り拓く可能性として鮮やかに浮かび上がる[初版農文協2010年]。新たに1章を加える。ほかに「市民社会と共同体」を収録。年譜・著作一覧付き。



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